相続とは、人が死亡した時、その人が持っていた財産を、配偶者や子など一定の権利を持った人が承継することをいいます。亡くなった人を「被相続人」、権利義務を承継する人を「相続人」といい、人の死亡または失踪宣告によって相続が発生することを「開始」といいます。
人の死亡による財産承継ですから、会社等の法人は相続人にはなれず、また財産のないところに発生しません。ただし、会社等の法人は包括受遺者になることができます。例えば、「全財産を遺贈する」とか「遺産の3分の1を遺贈する」というように、財産の全部又は財産の一部を全財産に対する割合を示して遺贈することができます。
生死を観念できる人を法人と区別して「自然人」といいます。自然人に財産が存在すれば、誰でも相続が開始し、これをめぐる様々な問題が生じうるといえます。また、自然人が死亡すると、相続人がそのことを知ると否とにかかわりなく、開始することになります。
<補足知識>
明治民法では、家の継承という価値判断のもとで家督相続制度が採用され、家長の財産は家の財産として、次の家長に承継されていました。しかし戦後の民法改正でこのような家督相続制度は廃止され、概念的にも被相続人の遺産の承継ということに集約されたのです。
開始原因である死亡の有無・日時については、通常は死亡診断書・検視などによるのが原則です。それに従って戸籍に記載されることになります。ただし、例外的に医師によっても死亡の確認がなされない時があります。どのような場合があるのか確認してみましょう。
1.失踪宣告
一定の期間、生死不明の者について死亡したものとみなすことを失踪宣告と言います。以下の場合、相続は開始されます。
【失踪宣告には…】
①不在者が7年以上音信不通で生死が不明のとき。
②乗った船が沈没してその後1年以上生死が不明のとき。
③戦地に行って戦争が終了してその後1年以上生死が不明のとき。
④死亡の原因となる危難に遭遇し、その危難が去った後1年以上生死が不明のとき。
以上の点に当てはまる利害関係人(不在者の配偶者、父母、相続人)が、不在者の住所を管轄する家庭裁判所に失踪宣告の申立てを行うことになります。家庭裁判所が調査を行ったうえで、失踪に関する届出の公示催告をします。不在者本人や利害関係人による取り消しがなければ、失踪宣告は確定したことになります。
不在者は上記①の場合、失踪期間満了時に死亡したものとみなされます。②③④の場合、危難が去ったその時点で相続が開始したことになります。
<補足知識>
失踪者が生存していた場合、失踪宣告は取消されることになります。だたし、取消し前に善意でした行為は有効です。取消されると、財産は本人に返還しなければなりませんが、現に利益を受けている限度で返還すればよいことになっています。
2.認定死亡
自然災害などにより死亡したのは確実であるが、遺体が発見されない場合のことを認定死亡といいます。これは、戸籍法によって定められています。その調査をした官庁又は公署は、死亡地の市町村長に死亡の報告をしなければなりません。ただし、外国又は法務省令で定める地域で死亡があったときは、死亡者の本籍地の市町村長に死亡の報告をする必要があります。実際には死体の確認がなされていなくても、死亡したと考えるに充分な状況があれば足りるとされています。
【認定死亡の効果】
法律上は死亡したものとみなされます。具体的には、死亡者の婚姻は解消され、相続が開始されることになります。
【失踪宣告との違い】
失踪宣告は、危難が去ったあと1年間の継続しての失踪と家庭裁判所の宣告が必要ですが、認定死亡の場合は、即時に効果を生じることになります。
<補足知識>
医学上の「脳死」状態が長期間続いても法律上の死亡にはならず、相続は開始されません。
通常、ある人が死亡した時期と、その人の相続人となるべき人の死亡時期とには時間的な差があるのが一般ですが、災害や事故などによって、数人が死亡した場合など、各人の死亡の前後が分からない場合があります。
この場合、死亡の前後に時間的な差を観念できるとしても、ごくわずかな時間差によって、相続人が先に死亡した場合と、被相続人が先に死亡した場合で資格が変動するという不都合が生じます。
そこで、死亡した数人中の1人が他の者の死亡後になお生存していたか否かが明らかでないときには、これらの者は、同時に死亡したものと推定されることとなっています。 その結果、数人の死亡は、同一の事故や原因による必要はなく、死亡の前後が不明であれば、同時死亡の推定がなされます。
<補足知識>
同時に死亡したと推定された者の間においては、相続は生じません。ただし、あくまで推定であるため、死亡の前後につき明確な証明ができた場合には、この同時死亡の推定は及びません。
相続は、被相続人の住所において開始すとなっています。住所とは人が生活の本拠にしている場所のことで、被相続人の最後の住所を「相続開始地」といいます。開始地は、訴訟、審判の管轄を判断する基準となり、また相続税の納税地となり、申告書は、開始地の所轄税務署長に提出されることとされています。